3.4.12

500円をあげるからさあ。

「さあ、いけ! 言えよ、もー!」
電車の向かい側の席に座っていた中学生ぐらいの男の子が、小学生の弟に言った。

「何だったっけ? もう一回言って」 

兄は小さい声でもう一度言った。
「Hello. Whats your name? My name is Taisei. Where are you doing?」
兄は日本語じゃなくて、英語で言った。

弟は小さい声で練習した。
偶然に私と弟の目に合って、「やっぱりできへんっ。恥ずかしいやん。もうええ。」って言った。

兄は弟に言うように唆してみた。「もうやれよ! やれば100円をあげるよ。」

弟は黙ってPSPで遊び始めた。

「じゃ、言ったら200円をあげるよ」、兄が言った。 
「もうええよ。彼女は英語が喋れないかも。フランスとかドイツから来たかもよ」、弟はPSPで遊びながら言った。
 兄が笑った。「いや、絶対アメリカ人だってば。だって、金髪やろう? そして大きなリュックサックを持ってるやん。アメリカ人の観光客に決まっているやん!」

私は兄の言ったことを聞いて、必死に笑わないように頑張った。
だって、彼らは、私が彼らの言っていることのすべてが理解できることを、ちっとも思いつかなかったらしいから。

兄は弟の姿を見てためいきをついた。
「ハローだけでええから言えよ。言いたいやろう?」って。

弟は私の顔を見た。勇気を奮い起こそうとした。
私はできるだけ近づきやすい人に見えるように頑張った。
もし言えたら、彼はきっと英語の自信がついてきて、英語が好きになってくれる可能性があるだろう。
しかし、もし言えなければ、 彼はきっと落ち込んじゃって、英語の自信を失っちゃって、英語が嫌いになっちゃう可能性もあるだろう。
英語教師の私はもちろん、英語が好きになれるようにしてあげたい。
だからこそ、どうしようと思った。
私は先に「Hello」を言ってあげたほうがいいのかなと思った。
いや、そうでもないのかな。

「言うなら言えよ。もうすぐ下りるからさ。言えたら500円をあげるよ」 、兄はもう一度賭け金を上げた。

弟はPSPを席において、もう一度、非常に小さい声で練習した。
「Hello. Whats your name? My name is Taisei. Where are you doing?」

「Where are you doing?」 はどういう意味なんだろうと、私は急に心配になった。何を言おうとしているんだろう。もし弟が勇気を出してそれを言えたら、私はどう答えたらいいんだろう。もし私が理解できなければ、きっと弟は自信を失ってしまい、英語が嫌いになっちゃうかも。
せっかく勇気を出して言えたのに。

「Hello」 
弟はやっと言えた。
私は笑顔になって、ハイタッチをしたい衝動を抑えながら返事した。

弟も笑顔になって、「Whats your name?」と聞いた。
「My name is Karen. Whats your name?」
「Taisei. Nice to meet you.」 といって、手を差し出した。
私は返事しながら、握手した。

自信満々で弟は兄を見た。 兄は何もなかったように、「もう姫路よ。降りよう」って言った。

「言えたよ~ん!500円頂戴!」

兄は笑った。「何で? 全部言えなかったもん。そして、それぐらい誰だってできるやん!」
(全部言えなくて良かったー と、私は思った。)


へこんだ顔で弟は「でも・・・ 約束したやん。」


・・・


今回は弟が笑った。
「焼きもちを焼いてるのな~!!」

2人は立ち上がった。

弟と目が合って、私は「Goodbye!」といった。
「Goodbye!」、弟は笑顔で兄を見ながら言った。

英語が好きになれるといいね。

10 件のコメント:

Noel さんのコメント...

かわいい兄弟ですね!

Domenica さんのコメント...

あは~!かわいいね。大きいリュックはアメリカ人なんだっ(#^.^#)
でも、兄は自分で言いなよ、って感じ。弟はがんばったね!!!やった!
私もアメリカで同じような経験をしたことがあるよ。英語で私のこと話してるの、全部わかっちゃってたけど、聞こえてないふり!(^^)!

Shun さんのコメント...

いい話ですね!独学で 日本語を勉強されているんですね、すごいです!

ayurun さんのコメント...

Nice entry!! Thank you for sharing!! I'm happy to read this entry.^^

ayurun さんのコメント...
このコメントはブログの管理者によって削除されました。
ayurun さんのコメント...

英語で話しかけてみたい気持ち、ドキドキしてどうしようかと思いながら、という気持ちがよく分かる。私もいまだに同じかも。弟くんはチャレンジできたけど、お兄ちゃんも本当はチャレンジしたかったんじゃないかな~?握手、きっと忘れられないと思うな~~~

Aki さんのコメント...

こんにちは。とてもいいお話しですね。弟の緊張感が伝わってくる素敵な日本語です。彼は、きっと英語が好きになると思いますよ。本当に楽しく読ませていただきました。ありがとう :)

karekora さんのコメント...

読んでくれてありがとうございました! 
兄も言いたかっただろうね :)
私も日本語を勉強し始めたとき、日本人と日本語で話すのはとっても緊張しました。

HEITA さんのコメント...

おもしろ~いっ♪♪
特に、金髪+大きいリュック=アメリカ人のところが(^-^)
なんか、黒髪+メガネ=日本人みたい^____^
ナイス対応でしたね^^

karekora さんのコメント...

修正をありがとうございました! 
金髪+大きいリュック=アメリカ人は面白いですね! 
私はイギリス人だけどね・・・ 彼らのイギリス人=何だろう・・・気になりますね!